米国不動産投資
[投資家のみなさまへ]
阿部・滝沢会計事務所では、米国で不動産投資をされている投資家の方、またこれから不動産投資を考えていらっしゃる方を税務面でサポートさせていただいております。税務申告書作成や不動産購入・売却時の税務処理、米国不動産運用に関わる税務面のご質問等、info@at-cpa.com まで、お気軽にお問合せ下さい。
米国不動産には、大きく分けてオフィスビル等の産業用不動産投資と、住宅用不動産投資があります。
ここでは、近年注目されている住宅用不動産投資について、以下の項目を説明いたします。
-米国不動産の所有形態
-投資形態による税務
-米国現地法人
-賃貸収入の計算
-不動産物件の売却
-不動産交換
[米国不動産の所有形態]
米国で購入した不動産を、個人で所有するか、法人で所有するかで、所得税や法的責任、相続等で、大きな違いが出てきます。
各投資家の目的に合った方法で、不動産を所有・運営することが重要です。個人所有と法人所有の主な特徴は、以下の通りとなります。
個人所有
個人で戸建てやコンドミニアム等の住宅不動産を購入し、住宅の所有者として州の固定資産台帳に登録されます。
賃貸収入や経費等は、個人の税務申告書(Form 1040-Individual Income Tax Return)で申告します。
メリット
・不動産の購入・売却を投資家個人の判断で、自由に行うことができる。
・法人税務申告義務や、法人税による二重課税を避けることができる。
・法人の管理維持費がかからない。
デメリット
・税金等の債務、事故やアスベスト、有害廃棄物等の責任を個人で負う。
・不動産所有者の死亡により、通常、米国で相続税が課せられる。
法人所有
コーポレーションやパートナーシップ等の法人形式で住宅用不動産を購入し、不動産を間接所有する形態です。
日本企業が米国で不動産を所有する場合、外国法人として米国に支店を設ける方法と、米国で設立した現地法人を子会社として設ける場合があります。また、個人投資家が、米国で現地法人を設立することもできます。
米国現地法人にはさらに、CコーポレーションやSコーポレーション、パートナーシップ、トラスト等の様々な法人形態があります。
外国法人・米国現地法人のいずれにしろ、どの形態を取るかは、税務対策面や法務面から、慎重に考慮して決める必要があります。
メリット
・株主の個人責任が限定される。
・通常、株主が、法人の債務や負債に対する個人的な責任を負わない。
(ただし外国法人が支店形態を取った場合は、負債等の責任が親会社に及ぶ場合がある)
デメリット
・法人税務申告書の提出義務が発生する。
(パートナーシップ等、法人税務申告書に加えて、個人税務申告書の提出義務が付随する法人形態もある)
・法人税率が外国法人の本国より高い場合、税金コストが大きくなる。
・利益配当に所得税が課税される。
(ただし、受取配当金控除や、租税条約で減税される場合もある)
・法人の維持管理コストがかかる。
[投資形態による税務]
個人投資家ー居住者・非居住者
米国での課税は、居住者の場合は全世界所得の申告が求められ、非居住者の場合は米国源泉所得のみが申告の対象となります。
外国人の個人投資家の場合は、一般的に年間の米国滞在日数が183日を超えた場合や、永住権を保持している場合等に、税務上、居住者として扱われ、日本をはじめ米国外での所得が米国での申告対象とされます。この居住者判定は、前年度以前の米国滞在等も加味されて判断されますので、十分な注意をもって米国滞在を計画することが重要です。
また、米国は連邦の他に州単位での税務申告義務がありますので、各州の居住者・非居住者判定も考慮する必要があります。
税法上、居住者と判定された場合、一般の米国市民と同様に、前世界所得が米国での課税対象となり、Form 1040 (Individual Income Tax Return) による申告が求められます。
すなわち、米国に不動産を持ち、賃貸を行う日本人投資家が、米国の居住者と判定された場合は、その年の日本での給与所得や賃貸所得、利息・配当金所得等も、すべて米国で申告を求められることになります。
しかしその場合、非居住者には使用できない控除や、税率が有利な申告身分(夫婦合算等)を選択することができ、日本で支払った所得税を外国控除することもできます。ただし一般的には米国の方が税率が高いため、個人投資家の方は、米国での滞在日数や永住権の獲得等にご注意いただく必要があります。
一方、非居住者の場合は、「米国源泉所得」のみ米国で申告すればよいことになりますので、賃貸であれば、賃貸所得は米国の銀行から受け取った利息等のみ、Form 1040NR (Nonresident Alien Income Tax Return) で申告する形になります。
また、日米租税条約等の恩典も適用することが可能です。
「米国源泉所得」については、後述の「外国法人」の項も併せてご参照ください。
米国現地法人
米国現地法人にはさまざまな形態がありますが、法人形態によって、税務申告形態も異なります。
・Cコーポレーション
一般的な株式会社です。収入から事業経費を差し引いた純所得に基づき、課税所得を算出し、それに対して法人の累進課税を適用します。
2017年時点では、連邦の最低税率は15%、最高税率は35%になります。
州所得税は、計算方法は州によって異なりますが、一般的に連邦の課税所得を基に、各州の調整を入れて算出します。税率は州によって異なり、ニューヨーク市のように州税に加えて市税や地方税を課す地域もあります。
また、株主が外国企業や外国人である場合、親子間の貸付金の利息控除等に制限がかかる場合や、米国内に他の関連企業がある場合は、関連グループ単位での税率適用や控除の制限等が適用される場合があります。
・Sコーポレーション
Sコーポレーションは小規模法人と呼ばれる形態で、法人の有限責任のメリットを享受しながら、所得に対する課税は個人税務申告書レベルで行うことができる(S選択)という形態です。
しかしながら、株主は個人のみで、法人が株主になることは認められず、非居住者の株主がいる場合は、S選択ができない等の制限があります。
・パートナーシップ
パートナーシップは、複数の個人や法人で構成される法人形態で、業務のマネージメントにすべて参加することができるジェネラル・パートナーシップと、投資家の個人責任を限定したリミテッド・パートナーシップがあります。
パートナーシップは持ち分や負債、契約等によってそれぞれのパートナーの所得分配を決め、パートナーシップ本体には課税されませんが、Form 1065 (U.S. Return of Partnership Income) を提出し、Form 1065から各パートナーに発行されたSchedule K-1 (Partner's Share of Income, Deductions, Credits, etc.)に基づいて、各パートナーが個人税務氏の句を行います(パススルー)。
外国法人
外国法人が米国に支店を持ち事業を行う場合、Form 1120-F (U.S. Income Tax Return of a Foreign Corporation)にて、米国源泉所得のみを申告する形になります。
米国源泉所得には、大きく分けて利息や配当金、賃貸収入を含む「投資所得」と、「米国内事業に実質的に関連する所得」があります。
一般的に、投資所得に対しては、総所得(グロス)に対して、一律で30%(租税条約が適用された場合は減税)が適用され、米国内事業所得に対しては、収入から事業経費を差し引いた純所得金額(ネットインカム)に対して、累進税率で課税されます。
一律30%の課税を避け、減価償却や管理費等の経費を控除するためには、賃貸収入が「米国内事業に実質的に関連する所得」と見なされる必要があります。税務申告書上で「ネット・ベース選択」(経費を引いた後の所得)をすることで、これが可能となりますが、投資所得の種類や租税条約によっては、30%源泉徴収税を選択した方が有利となる場合もあります。
米国源泉所得の概念は、個人の非居住者等しかについても、同様に適用されます。
尚、米国の事業に再投資されない支店利益に対しては、従来、租税条約により支店利益税が免除されておりましたが、新租税条約では、一定条件を満たさない日本企業に対しては、5%の税率を上限として、支店利益税が課せられることが認められました。
[賃貸所得の計算]
賃貸収入
投資家は現金主義・発生主義のいずれかの会計方針を適用して、賃貸料を算出し申告します(ただし前受賃貸料については、現金主義で計上)。保証金は、テナント退出時に返還しない場合のみ、課税対象となります。
もしテナントとの合意により、テナントが自己負担で物件の改良を行った場合は、その改良費は賃貸収入として扱われます。
賃貸費用
賃貸費用として控除可能なものには、主に以下のものがあります。
・仲介業者の物件管理費用(マネージメント・フィー)
・維持、修繕費(例:庭師、配管修理等)
・保険料
・賃料に含まれない光熱費やセキュリティ・システム代等
・ローンの支払利息
・物件所有者が負担した物件改良費
・減価償却費(米国の場合、住宅不動産は定額法で27.5年)
賃貸費用が賃貸収入を上回った場合、損失が発生しますが、この損失は受動的活動(Passive Activity)による損失として、他の所得(事業所得や利息・配当等の投資所得)と相殺することができません。この損失は、翌年以降に受動的所得が発生するまで相殺することができず、繰り越されます。
また、受動的所得は、通常の所得(Ordinary Income)として、累進税率で課税されます。
尚、投資家が実質的に経営に参加している場合は、受動的活動とはみなされず上記の制限の対象外となりますが、一般的に賃貸事業は受動的活動とみなされます。
[不動産物件の売却]
売却益の計算
不動産の売却益は、実現した売却価格と不動産の簿価(取得価格)との差し引きになります。
実現した売却価格には、実際に受け取った現金の他に、資産等の現物を受け取った場合はその時価、また売り手側のローン等の負債を引き受けた場合はその負債額が含まれます。
不動産の簿価には、購入価格、不動産仲介手数料、ファイナンス・コスト、物件の改良費等が含まれます。
尚、売却益の算出の際には、過去にすでに税務控除した減価償却を、簿価から差し引く必要があります。
売却益はキャピタル・ゲインとしてキャピタル・ゲイン税率で課税されますが、過去に控除した減価償却費の一部は、通常所得(Ordinary Income)として累進税率で課税されます。
個人税務申告の場合は、2017年現時点でキャピタル・ゲインの税率は、通常所得の税率より低くなるのが一般的ですが、法人税務申告書の場合は、同じ累進税率で課税されますので、税率の違いによる影響はありません。
FIRPTA (Foreign Investment in Real Property Tax Act of 1980)
米国税法上の非居住者が米国の物件を売却した場合、原則的に売却価格の一部(通常15%)を、IRS(合衆国内国歳入庁)に源泉徴収・納税することが求められています(FIRPTA)。これは、外国人の所有者から税金の徴収を確実にするための処置で、居住者や米国市民には義務付けられていません。
源泉徴収額が売却益に課税された税金を上回る場合は、非居住者の不動産所有者は、その年の税務申告書で、還付請求をすることができます。
尚、州にも同様の源泉徴収規定があります。
[不動産の交換]
米国税法では、同一種類の資産の交換は課税対象とならず、将来売却や、異なる種類の資産との交換を行うまで、課税を繰り延べることが可能です。
これを不動産に適用するためには、不動産が事業活動の用に供されているか、投資目的で所有されている不動産である必要があります(販売用に保有されている不動産は対象となりません)。